シンガーソングライター的な、ギター(ピアノ)一本で完結する作曲法について書きます。自分も勉強中の身であるので、勿論レベルはアマチュア(その中でもさらに下の方)とはなりますが、自分で曲を作るという最低レベル、そしてそれを楽しめるレベルは少なくとも達成できるとは思います。楽器をやってて、曲を作ってみたいとか思ってる人や、どんな風に曲を作ってるのか知りたい人は是非。作曲のレベルを上げたいと思ってる人の力になれるかは、保証できません。
LV0:マネする
最初はマネするだけでいいです。好きなアーティスト(できればシンガーソングライターとかギターロック系のバンドがいい。デスメタルとかは厳しいよ)のコード進行をマネするだけです。詞を自分で書いて、それに好きなアーティストのコード進行をパズルのようにくっつける。それで、あとはノリで詞にメロディを付けていく感じですね。これが一番レベルの低い作曲ですかね。
ここで意識したいのは「構成」です。余裕があれば「リズム」も。
シンプルに「Aメロ」「Bメロ」「サビ」の構成で作ったほうがいいです。勿論、この構成でない曲もたくさんありますが、この構成が一番簡単に「曲っぽく」なります。プロのアーティストの「Aメロ」と「Bメロ」と「サビ」のコードをくっつけるだけで、曲になりますから。(もちろんキーは揃えてね)(あとAメロとBメロのメリハリはつけましょう)
バッキング(コードの伴奏)のリズムは好きなようにしていいですが、メロディ(歌)のリズムは基本的に「余裕」を持ちましょう(ノリも大事)。語数は最小限に抑えたほうが事故りにくいです。拍を意識して詞にメロを入れましょう。
LV1:ダイアトニックコードを覚える
「ダイアトニックコード」と呼ばれる最も基礎的な定理があります。キーに対して使用できるコードが何か、というのを定めた理論です。
(メジャー;長調の場合を考える)keyの音をⅠ(ルート)として、メジャースケールの音に順に「1234567」の数字を割り振ります。Cメジャースケールの場合、「ドレミファソラシ(CDEFGAB)」が順に「1234567」です。スケールがよくわからない人はCキーだけ分かれば、カポで他のキーに移動できるし当分はそれで何とかなると思います。
次にその「1234567」に役割を振ります。「Ⅰ(M7)」「Ⅱm(7)」「Ⅲm(7)」「Ⅳ(M7)」「Ⅴ(7)」「Ⅵm(7)」「Ⅶm7‐5」です。Cメジャースケールの場合、「C(CM7)」「Dm(7)」「Em(7)」「F(M7)」「G(7)」「Am(7)」「Bm7-5」です。これが、キーに対して使用可能なコード、ということになります(これはメジャーの場合)。
ここからこれらの数字を並べてコード進行を作ります。そこでそれぞれの数字の役割を考えます。Ⅰはルート、と言ってコード進行の根っこを担います。具体的には「開始」や「完結」ですね。Ⅰから始まって終わるのが最も基本です。Ⅵもルートと似たような役割をもっています。暗い曲にしたいときは、Ⅵから始めたり、Ⅵで終わったほうがいいです。
Ⅳはドミナント、Ⅴはサブドミナントと言われ、一旦不安定感を僅かに生むことで、次の音への経過をナチュラルに響かせる役割があります。ⅣはⅢやⅤに繋がることが多く、ⅤはⅠもしくはⅥに繋がり、つまり完結に導きます。Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ(またはⅥ)のコード進行が所謂「スリーコード」で、最も簡単なコード進行です。
Ⅶは普通使いません。もっと上のレベルです。Ⅲは汎用性高いですが、だからこそ薄味です。ⅡはⅣとほぼ同じ役割でよく代用されます(なぜ代用するのかは後述)。
具体的なコード進行の例を挙げれば、「Ⅰ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ」「Ⅳ-Ⅴ-Ⅲ-Ⅵ」「Ⅰ-Ⅵ-Ⅳ-Ⅴ」など(mとかは省略しています)。まあ、あとはノリですかね。これで一応自力でコード進行を組み立てられますが、大抵LV0で作ったコード進行と同じになります。コードの羅列なんて有限ですからね。
ダイアトニックコードではないコードを、キーに対して「ノンダイアトニックコード」と言い、特殊な技法でのみ用います。基本的にノンダイアトニックコードは気持ち悪い響きです。
LV2:必殺技を覚える
ダイアトニックコードを覚えたら、ここからは「引き出し」を増やしていく作業に入ります。カッコいいコード進行ができる公式、つまり「必殺技」を覚えていきます。勿論ここに全て書き出すことはできませんが、自分で勉強してみたり、プロの曲の分析をしながら、増やしていくことで、よりハイレベルな作曲ができるようになっていきます。広く「必殺技」はノンダイアトニックコードを使う技法のことを指します。
Ⅳm
所謂ドミナントマイナーと言われる手法で、本来メジャーであるⅣの音を、マイナーにすることで、強い不安定感を生むと同時に、ルートに向かって強く「解決」を要求する効果があります。「Ⅳm-Ⅰ」もしくは「Ⅳm-Ⅴ-Ⅰ」と使われます。弾いてみたら、「なるほど」となるはずです。普通のドミナントよりインパクトのあるコード進行ができますが、乱用するとダサいです。
Ⅲ7
これは先ほどのドミナントマイナーのように、Ⅵに向かって強く「解決」を要求します。「Ⅳ-Ⅲ7-Ⅵ」や「Ⅳ-Ⅴ-Ⅲ7-Ⅵ」のように使われます。かなり暗い印象を生みます。
Ⅰ7
ドミナントへの解決を要求するコード進行。先ほどの「Ⅳm」「Ⅲ7」と違い、「完結」へ向かうわけではないので、違うブロックへの進行として使いやすいです。例えばAメロの「Ⅰ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ」という進行からBメロの「Ⅳ-Ⅴ-Ⅲ-Ⅵ」へ移動するとき、Aメロの最後をⅠ7とすることで滑らかなBメロへの転換ができます。「Ⅰ-Ⅰ7」とするのが普通です。
ツーファイブ
Ⅳ、Ⅴ、Ⅵへの移動の際、「Ⅴm-Ⅰ7-Ⅳ(M7)」「Ⅵm7-Ⅱ7-Ⅴ」「Ⅶm7-5ーⅢ7-Ⅵm」とする技法。前二つのコードは一小節の中にぶち込むので「じゃっじゃっじゃーん」って感じになりまして、かなり早いコードチェンジが必要です。Ⅰ7やⅢ7の役割を強めるイメージです。
クリシェ
特定の音を半音ずつ下げたり上げたりする手法。下降感や上昇感を生みます。「Ⅰ-ⅠaugーⅠ6-Ⅰ7」とした後ドミナントへ進行したり、「Ⅱm-ⅡmM7-Ⅱm7」とした後サブドミナントやⅢmへ進行したりします。最近はコードをそのまま下げることで全ての音をクリシェする技法もよく見られ、「Ⅵm7-Ⅵ♭m7-Ⅴm7」などの進行がそれにあたります。
ウォーキングベース
分数コードと呼ばれるコードの最も基本的な使い方。例えば「Ⅰ-Ⅴ-Ⅵ-Ⅲ」という進行の際、Ⅴのベース音をⅦにすることで、ベース音がⅠ→Ⅶ→Ⅵと順に下降することになり滑らかな進行になります。Cメジャーの場合「C-GonB-Am-Em」となります。
dim:ディミニッシュ(ベース音のクリシェ)
dimまたはdim7は現代ポップスではベース音のクリシェの際経過音として使われます。「Ⅱm-Ⅱ#dimーⅢm-Ⅳ-Ⅳ#dimーⅤ」のように使いまして、強い上昇感を与えることができますが、多少無理矢理な進行であり、多様はまず不可能、使いどころもかなり限られ、有効に使うためには高いセンス、十分な経験が必要であり、テクニカルな技法であることは間違いないでしょう。
拍子を変える
4分の4拍子から4分の3拍子にしたり、4分の4拍子に途中2分の2拍子を一小節入れたりすることで曲調をガラッと変える手法(リズムの食いを生む効果もある)。『Fantastic Dreamer(このすばのOP)』のBメロや『夏色(ゆず)』のBメロに見られます。
などなど。
LV3:転調する
転調とはkeyや調の変換のこと。とにかく強いインパクトを与えられる技法です。しかし、転調は「ナチュラル」に行わなければ全く効果的ではなく、かえって逆効果を生みます。転調のためにこれまでたくさんの技法が考えられてきており、私も全ての技法を知っているわけではありませんが、ここではいくつか紹介したいと思います。
平行調転調
いっちばん簡単な転調。簡単すぎて、もはや転調じゃない。具体的にはⅠメジャーからⅥマイナーのキーへ転調する手法ですが、ⅠメジャースケールとⅥマイナースケールの構成音が同じ事を利用した転調であるため、ほぼほぼ転調感はないです。ちょっと暗くなった(逆の時は明るくなった)印象を与えるくらいです。Ⅲ7などを使うことで転調します。「Ⅰ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ-Ⅳ-Ⅴ-Ⅶ-Ⅲ7」としたのち「Ⅵm-Ⅳ-Ⅴ-Ⅵm」とすることで転調していますが、ほとんど転調感はないですね。主にAメロからBメロへの転換に使われます。(ⅠメジャースケールとⅥマイナースケールを平行調の関係と言います)
全音上げ(半音上げ、全音下げ)
GREEEENが良く使う転調。ただ単にkey調を全音上げる(または半音上げたり、稀にさげたりもする)手法で、多くの場合「いきなり」転調します。いきなり転調してもそこまで変じゃないからです。CメジャースケールからDメジャースケールへ転調するならば、「C-F-G-C-F-G-F[-C-C#]」として([]内は一小節の中に入れる)「DーG-AーD…」と転調できます。多少の違和感は残りますが、歌唱力があればカバーできるかも。手っ取り早く曲のテンションを上げられる汎用性の高い転調です。
同主調転調
米津玄師も愛用している、ポップスでよく使われる転調です。ⅠメジャーからⅠマイナー、またはその逆に転調する技法です。
ド派手に転調したいなら、「Ⅳ-Ⅴ-Ⅵ♭ーⅦ♭」としてⅠマイナーに転調またはその平行調に転調できます。CメジャーからE♭メジャー(Cマイナーの平行調)への転調なら「F-G-A♭ーB♭ーE♭…」という感じですね。
ナチュラルに転調したいなら、Ⅰマイナーに対するⅤメジャー(またはセブンス)が、Ⅰメジャーのサブドミナントであることを利用します。AマイナーからAメジャーへの転調なら「Am-Dm-F-G-E」として「F#m-D-E-A」と転調できます。
転調の注意点
後半二つの転調でも、書いてある通りのコード進行をなぞるだけでは綺麗に転調できません。転調の場合、コード進行だけでなく、リズムやそれまでのコード感や、歌唱力、奏法なども重要になってきます。基本的に転調の乱用は避けましょう。
転調は簡単ではありません。プロの転調をたくさん分析しましょう。アニソンは転調の宝庫なのでたくさん勉強になるところがありますのでおすすめします。JPOPでも転調は少なくないですが、質素な、転調してるとは気づかないほどナチュラルな転調ばかりなので、ある程度知識がないとどこが転調なのかわからないため分析しにくいです。
そもそも、転調とは、曲を派手にしたり、目立たせたいところを目立たせるための手法です。サビで転調する場合、サビに歌唱者の最高音を持ってくることでサビの音圧を上げサビの印象を強めるという狙いがあります。最近のJPOP、とくにバンド界隈では、転調ではなく単にサビに高音を持ってくることを代用するという手法も多く使われています。つまり、プロでも、転調をナチュラルに行うことにハードルがあるということですね。アマの場合は、流行に乗ってハイトーンなサビを作るのが無難な気がします。
それでも、それでも、転調とはロマン。
LV4:メロディをスケールやモードに沿わせる
ここまではコード進行についてのみ考えてきましたが、「メロディ」の制作までが作曲です。コード進行ができれば、それにノリで歌(メロ)を付けることは全然難しくはありません。しかし、よりテクニカルに作曲するとき、メロディを理論的に作ることも考えられます。ギターやピアノでアドリブするときのように、コード進行に合わせて、コードトーンや、コード進行に合うスケールやモードを考慮しながら、メロディを作るということです。
コードのベース音に対して何度の音をメロに引っ張るかで、コードとメロのハモの生まれ方が変わるため、僅かに印象が変わります。しかし、そのわずかな印象の違いが「エモ」を作るのは間違いありません。最近のヒット曲の中も、明らかに意図的にメロとコードのハーモニーを考慮して作曲されているであろう曲が多くみられます。とはいえ、このレベルまで来ると、「感性」も重要になってくるのも否めません。音楽も芸術ですからね。
終わりに
この記事を読む人なんてかなり限られた層でしょう。力になれたら幸いです。なにか質問あれば言ってください。あと、名称を間違えたりしてるところもあるかもしれませんのでご了承ください。ここに書いたのは作曲法のごくごく一部です。興味がわいた人はどんどん研究していってください。
そして、世の中にある曲の多くが、このような理論に基づき作られているということを理解することは、今まで単なる娯楽だった音楽が、探求されるべき芸術へと昇華されることに他なりません。多くの人により高次の音楽世界が開かれることを切に願います。
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